2003.6.5

グローバル・アプローチによる日本経済の再生

視点

1.開放経済体制下、行き過ぎた円高に伴う賃金その他のコスト高が、世界輸出市場における日本のシェア低下、対外直接投資の隆盛と対日直接投資の不振を招来し、これが国内における生産・雇用を圧迫している。

2.国内不況下、国際価格競争力を失った日本企業は、生き残りをかけて賃金カットなどのコスト・ダウンを強く迫られている。ミクロ・ベースのコスト削減努力が経済全体で捉えた名目所得の圧縮につながり、バブル崩壊後の企業・金融機関のバランス・シート調整に伴う縮み志向と共に、国内デフレ圧力として作用し、これが新たな不良債権を発生、更なるバランス・シート調整がデフレ圧力を強める、という悪循環を生じている。

3. デフレ圧力に対処するためには、総需要の拡大、金融システムの強化、企業金融の円滑化が不可欠。この間、ゼロ金利維持と「量的」金融緩和の強化にもかかわらず、行き過ぎた円高は改まっていない。一方、高齢化など今後の財政赤字拡大要因を考慮すると、景気対策としての財政政策の活用は限界にきている。
こうした状況下、日銀の購入対象資産の多様化・拡充など、現在当局が公に検討している国内金融政策面での追加措置だけで日本経済の本格的な再建を図ることは困難。また、嘗て学者が提唱した「スタンプ貨幣」や所謂「ヘリコプター・マネー」の導入などの諸提案には、実践的な問題や実体経済拡大効果が不確かといった難点がある。万能薬が無いなか、開放経済体制下、以下のとおり、海外主要国の協力と理解を得て、効果が比較的確かな政策措置のパッケージをグローバルかつ中長期的な配慮の下に実施することが望まれる。

政策パッケージの要点 (5項目)

1. 行き過ぎた円高を是正するため、為替相場目標圏を設定・公示。必要に応じて為替市場介入。

— ——当面は対米ドル円相場150−160円を目標圏(下記「参考」参照)。
——米プリンストン大スヴェンソン教授の提案のように150円ないしそれより円安の水準でドル固定相場制度に移行するのも一案。

2.国内金融状況(市中金利や金融・信用集計量などの動向)のほか、実効為替相場の動向も十分に勘案した金融政策運営。

——国内金融指標のほか為替相場を構成要素として合成した総合金融市場状況(money market conditions, MMC)指数を金融政策の一つの指標として活用するのも一案。

3.構造的な財政赤字(structural deficits)圧縮のための中長期目標を設定。但し、デフレ圧力を和らげるため、自動調整機能(built-in stabilizers)の作動は容認。

——これにより長期金利と円相場に対する上昇圧力を防遏。

4. 上記の政策環境整備を条件として、物価に関する数値目標の設定、設定目標からの乖離に関する事後説明メカニズムの強化などを通じて、物価と金融政策スタンスの中長期的な動向に関する内外市場の期待を安定化(長期デフレ・円高傾向持続期待の払拭)。

——物価の数値目標は、当初は水準に関する目標値として設定。この目標の達成の後、物価上昇率に関する数値目標の設定を検討する意向を明示。 —

——これにより、ゼロ名目金利維持政策の下、実質金利の低下を図り、金利機能を活用した内需喚起、景気の持続的な回復を目指す。

5. 中長期的にみた日本経済の効率化(人口高齢化のなかで国民全体の経済福祉水準向上に必要な雇用可能人口一人当たり生産性の持続的引き上げ)や国際分業と内需の輸入誘発度の上昇につながる国内市場の一層の対外開放(外国企業の対日直接投資の促進を含む)など、構造改革を推進すると共に、世界経済全体の運営に関する国際的な働きかけを強化。

——円の為替相場調整に関する貿易相手国との摩擦を少なくするため、現行為替相場水準でも十二分の国際競争力のある商品の輸出について円高是正から生ずる増収部分について選択的な輸出調整税を課すことも一考に値する。但し、こうした恣意的な課税は資源配分の歪みを助長する虞もあり、慎重な見極めが必要。

——日本の構造改革に関する多角的看視(multilateral surveillance)の強化を与野党合意の上で受け入れ、国際的な看視グループによる定期的な看視結果の公表とこれに関する国会審議を制度化する案は、円相場是正に関する外国の理解を得るためにも有用と思われる。

——現存する欧米諸国中心の国際看視体制に加え、中国などをレギュラー参加国とする新たな小グループを組成し、マクロ・ミクロの経済政策運営に関する、よりグローバルな国際協力を推進。

(参考) 円相場目標圏の設定にあたって参考になる若干のマクロ指標

1. 円の実質実効為替相場(単位労働コスト基準)によって計測された基礎的な国際価格競争力の指標

これを指標(OECD統計、製造業ベース)として用いた場合、バブル崩壊以前の1980年代後半期中で国際価格競争力が最も弱体化した時期(1987〜88年)の競争力水準を取り戻すには、円の実効為替相場を2002年平均に比し3割程度は切り下げる必要。

こうした調整は、日本の全ての貿易相手国通貨に対する円の為替相場の一律約3割(対米ドル相場、2002年平均125円から150〜160円へ)切り下げによっても、ユーロの対米ドル相場の上昇や米ドルにペッグしている中国人民元などの対ドル切り上げと組み合わせた上での円対ドル相場の上記より小幅な切り下げ、などによっても実現可能。

2. 円の購買力平価

2002年時点で150円程度(OECD統計)。