世界に貢献する創造的な日本人の形成のために

 

重原 久美春

今から丁度四半世紀前の1979年に、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と題した本が発刊された。著者のハーヴァード大学教授エズラ・ヴォーゲルは、社会学者の立場から、日本の政治、経済、社会、教育について、アメリカが学ぶべきだと思われた幾つかの側面を記述した。この本は単なる日本礼賛の書のように見られがちであるが、日本版への序文のなかで次のように書かれていることは見逃せない。

 「日本の状況をみると、この国にも、アメリカ同様の傲慢の罪の危険がある
  ことを指摘したい。」「もし日本が、おのれの過剰な自信を抑え、新しい世
  界のビジョンを受け入れるならば、・・・人類全体にも大いなる貢献をする
  であろう。」

更にヴォーゲルは、1984年に出版した「ジャパン・アズ・ナンバーワン再考―日本の成功とアメリカのカムバック」という題の本の中で、次のような苦言を呈している。

  「各国で私が感じるのは、日本に対する根強い不信感である。傲慢な態度、
  本音と建て前の使い分け、個人的にも組織的にも、そして国家的にも閉鎖
  的な体質。こうしたことを放置したままで、今後とも日本が国際経済の中
  で成功しつづけられると思う人がいたら、それはあまりにも楽観的という
  ものだろう。」

加盟国を先進工業国に限った国際機関である経済協力開発機構(OECD)は、ヴォーゲルの指摘を待つまでもなく、既に1970年に日本に派遣した教育調査団の報告書のなかで、初等・中等教育については世界的にみて優れていることを認めつつ、過度の画一主義を避け、生徒の個性を発達させることを提言すると共に、日本の高等教育への投資が際だって低いとして、その充実を図り、世界性をもつ人材を養成することが自国のためだけでなく世界のために重要であるという見解を示した。本年9月に発表されたOECD教育関連統計によれば、日本の小・中学校における一学級当たりの生徒数は加盟国中韓国と共にずば抜けて多く、また、高等教育に関する公的支出の対GDP比率は加盟国中最低の状態が続いている。グローバリゼーションの時代に、内向きでなく真に国際的な視野に立った創造的な日本人を形成するための教育制度のあり方に関する検討は、感覚的なもので終わってはならない。国際比較統計などを整備して、より精緻な現状分析を行い、これに基づいて抜本的な制度改革を打ち出すことが切に望まれる。                (元OECD副事務総長)